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【時代・筆者に関して】
○鎌倉時代の鋭敏な書風と室町時代の持続的筆勢の書風の中間的な書風であり、南北朝時代頃の書風とみられます。
○極め札(きわめふだ;鑑定票)はありませんが、本紙に「慶運(けいうん)」とあります。
慶運法師[けいうん・ほうし 生年未詳~1369]は南北朝時代に活躍した歌僧(かそう)で、その真筆が知られています。それらの真筆との比較によれば、本短冊が慶運の真筆(自筆)と確認できます。
詳しくは参照画像を御参看ください。
《参照画像1》慶運和歌短冊(伏見宮家旧蔵『短冊手鑑』;『日本古典文学叢刊16』1978年 ※現在、宮内庁書陵部所蔵)と本短冊の筆跡比較
《参照画像2》慶運和歌書跡(国宝『宝積経要品(ほうしゃくきょうようほん)』;前田育徳会蔵)と本短冊の筆跡比較
※『宝積経要品』は『高野山金剛三昧院奉納短冊』とも呼ばれ、経文に添えて、足利尊氏ら当時の有力者・有力歌人が和歌を書して奉納したもの。慶運の自筆和歌も数首あり、同時代の兼好、頓阿らの自筆和歌もあり文学・書跡史上においても重要な資料。
《参照画像3》慶運和歌短冊(『日本書蹟大鑑6』講談社1979年)と本短冊の筆跡比較
○慶運は南北朝時代の代表的な歌人で、父・浄弁(じょうべん)法師、兼好(けんこう)法師、頓阿(とんな)法師とともに和歌四天王と称せられました。当時の歌壇の中心であった二条派に学んだが存命中は二条派内で評価されず、二条派が編集した重要な歌集(勅撰和歌集である新千載集、新拾遺集など)には入集せず、没後の『新後拾遺集』『新続古今集』などに数多く入集しています。『続群書類従』に『慶運法師百首』があり、『群書類従』には『慶運法印集』があります。(※慶運の歌集については未調査。)
○先の二条派歌壇で認められなかったことにつながるエピソードとして、その憤りからか死の時に詠草のすべてを埋めてしまった(「東山藤もとの草庵のしりへに、みなうづみ捨て侍る」/『ささめごと』)と伝えられます。歌風については「慶運はたけを好みものさびて、ちと古体にかゝりて、姿・心はたらきて、耳に立つさまに侍りしなり」(『近来風体抄』)とあります。
○僧侶としては天台宗の門跡(もんぜき)寺院の一つである青蓮院(しょうれんいん)の尊道法親王(そんどうほっしんのう)に仕えたとされ、書法においても影響を受けたものと考えられます。
門跡寺院は天皇家や摂関家の子弟が出家の際に入る寺院で、文化史上においても重要な位置付けにあります。
【内容について】
○「初恋(はつこい)」という題名で、届かない想いの切なさを詠じています。
「初戀 こひ衣 いつしかあまる そでのつゆ むすびそめつと たれにかたらむ 慶運」
(己比衣 以川之可安万留 曽天乃川由 武寸比曽女川止 太礼尓可多良武)
大意:ほのかな想いだったのが いつしか涙が袖に露を結ぶまでになってしまった この想いを誰に相談できようか
※「初恋」とは、現在一般的にいう初めての恋という意味ではなく、誰かを想い初めるという恋の始まりの状況のこと。
※「こひ衣(恋衣)」はいつも心身から離れない恋心を衣にたとえた言葉で古来、用いられている。
※「衣」に関わる「あまる」「そで」「むすび」などの縁語(えんご)を巧みに用いて初恋の情景を詠じている。
【材質など】
○紙本墨書(肉筆)。料紙(りょうし)は装飾のない素紙。歌会のための下書きだろうか。まだ短冊による歌会の書式などが細かく定まっていない頃の書跡であり、後代より小振りな短冊となっている。
○料紙の表面の毛羽立ちがみられるが、墨はきちんと残っている。
○手鑑に貼り込んだ際のものとみられる覆輪(周囲の装飾。ここでは金箔散らしの料紙)がほどこされている。
○裏打ち紙は、打ち替えたようであり、裏書きはみえない。
【寸法】タテ 約31.7cm×ヨコ約4.8㎝
※その他注記など・・・
・筆者名は基本的には署名・伝承筆者によっています。自筆・真筆であるか否かについては説明文中でふれています。
・詳細は画像資料その他を御覧ください。また、釈文等は省略・誤読もあろうかと思いますので御参考程度にお考えください。どうぞよろしくお願いします。
・出品取り消しについて・・・基本的には御入札のない場合に限りますが、画像・解説の改訂を行なう際や、他所にての販売機会との兼ね合いで、出品取り消しを行なうこともあります。たいへん失敬ながらどうか御諒承ください。
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